お気楽シティファーマーへの道

第1章「小さな小さな農園主になるまでのダメダメな歴史②」


そういえばこんなこともありました。

10数年前に美篶堂という神田の製本屋さんで見かけた「和暦日々是好日」という、旧暦に基づいた手帳を長い間ずっと使っています。

最初は江戸の生活文化に興味があって、使い始めたのですが、制作者の高月美樹さんと交流するうちに、自然のしくみへの関心が芽生えてきて、江戸文化そのものの俳句や、きものが、自然と深く関わっていることを理解しました。

文化系とか、理科系とか、芸術系とか、そんなレベルを超えた奥深さを旧暦の暮らしから感じて、興味が尽きません。

 

「これからの時代は、右肩上がりの経済成長や目先の利便性を追い求めても、永続的な幸福は手に入らないことに多くの人が気づき始めています。この地球で私たちが存続していくためには、命のつながりや時間の環をリアルに、直感的に感じてみてください。あなたの意識がシフトすることで、世の中のパラダイムは変わり始めることでしょう。」(「和暦日々是好日」自然のサイクルより)

旧暦を生かした暮らし。江戸期の暮らしにドンドン惹かれて、農業といっても、工業的な、化学肥料で自然をコントロールするような農業じゃなくて、神秘的な自然のしくみを生かすようなやり方で、やってみたい。

それも都市農業として、じぶんの目の届く生活圏でやってみる。

そんな夢みたいなことを、ぼうっとした頭で、薄ぼんやりと考えていたのかもなぁと、思うんです。

きっとそれは、三〇年前に亡くなった茨城の百姓だった祖父が、いまのぼくと同じ年頃だった1960年代まで、確かに存在していた生活世界を、少しでも取り返したいという思いが根底にあるんだと気がつきました。

そこでは、圧倒的な霞ヶ浦と里山の自然に包み込まれて、江戸時代とあまり変わらぬ暮らしが営まれていました。

幕末に建てられた藁葺き屋根の家は、電気や石油に頼らない自然のしくみを生かしたスタイルで、実によく計算されているなあと、子供心に頼もしく感じていました。

まさか、1970年になった途端に、その家も、そこで営まれていた暮らしの流儀も、霞のように消えてしまうなど、想像もしませんでした。それほど、大地に根を生やした揺るぎない自信に満ちた幸せな暮らしでした。

 

きっと、ぼくと同じように、失われた生活文化を取り戻したいと考えている人が、全国にいるに違いない。

そんな強い思いを共有出来る同志との出会いを求めて、「懐かしき未來」というリトルプレスを作ることにしました。

そして、その小さな本は誰にも邪魔されず、好きなように、作りたかったので、出版社も探さず、取材、執筆はもちろん、ブックデザイン(その2の表紙のみ大平夏澄さんが担当)も印刷も製本も、すべて自前の設備でやってみることにして、2冊作りました。

まえがきの最後に、こんなことを書きました。

「心温まる懐かしい暮らしや仕事のスタイルを、古いままではなく、新しい技術や仕組みを使って実現しようとしている。このシリーズ「懐かしき未來」は、そんな未来人たちとの出会いの記録です。」

もしかすると、このリトルプレスの仕事を通じて、少しずつ、たどたどしい歩みではあるけど、「お気楽シティファーマーへの道」を歩きだしたのかもしれません。(つづく)

第1章「小さな小さな農園主になるまでのダメダメな歴史①」


心の奥ではもう、ずっとずっと長い間、自分が住んでいる家や町で、野菜を作りたいと思っていたのです。きっと。

古い記憶をたどると、30年近いむかしのこと、延藤安弘さんが書いた『まちづくり読本』の一章「都市に農場をつくる」に行き着きます。

ロンドンのケンティッシュタウンという町が「この農場のおかげで荒廃していた地区の環境に生気がとり戻され、青少年による環境破壊や暴力がなくなっていったそうです。」と書いてありました。

最初図書館で借りて読んだこの本に、深く影響されましたね。「まちづくり」という言葉も当時は、あまり一般的じゃなく、とても新鮮に感じました。

そして、始めてはみるんです。プラスチックのプランターと野菜作りの参考書を買ってきて、農協が経営するショップで買った小松菜の種をまいたりして、初めてみるんですが、本には育てやすい初心者向きの野菜と書いたある小松菜を枯らしてしまい、自信を喪失する。そんなことの繰り返しでした。

『200万都市が有機野菜で自給できるわけ―都市農業大国キューバ・リポート』を読んだら、キューバでは都市農業で、自給自足できていると知って、びっくり。日本もなんとかしなきゃいけないんじゃないかと思いましたが、自分の周りの日常風景をみると、そんな緊張感はみじんもなく、スーパーにいけば、山ほど野菜が売っていて、自分ひとりで取り越し苦労している気がして、シティファーマーへの夢は、雲散霧消してしまいます。

数年まえ、激しい衝撃を受けたのは、左の写真ですね。

池袋のジュンク堂で目にした『シティファーマー』という本。

なんだこれは。こういう手があったか、って感じ。

ぼくが住んでいるのは、東西南を隣家に囲まれ、北側が道路に面している日当たりの悪い戸建ての家です。

何をやっても野菜作りはダメだと、あきらめかけていたので、脚立に乗ってやる農作業は目からウロコでした。

セルフビルドで家を作っていたときも、足場の上で作業していたので、高いところの作業には抵抗がありません。

よろこんで本を買って帰ったものの、手間のかかる有機農業を始めるまでのモチベーションが上がらず、やはり意欲は薄れてしまいました。(つづく)